2011/06/21
過去数年に渡り、日系企業を始めとする数多くの海外企業が中国に製造拠点を設立してきましたが、最近では、これら企業の中では、脱中国、米国回帰の動きが増えてきています。
そうした背景には、アメリカでの製造業を行う環境が、中国やメキシコ等と比較しても非常に魅力的になっているということを米国の大手コンサルティング会社ボストン・コンサルティングが分析をしており、複数のメディアでも同様のことが伝えられています。
これらコンサルティング会社やメディアは、これまでは新規製造拠点の進出が中国一辺倒だったものが米国回帰に方向転換した理由として、以下を挙げています。
1) 米中の人件費の差が急速に縮まっている
・ 数年前までは中国の人件費は米国の約1/10だったが、近年、中国の人件費は毎年17%の割合で上昇している。
・ この状態が続くと、米中間の賃金の差は2015年までには殆どなくなるものと思われている。
・ 今後、人民元の切り上げが始まると、賃金の差が更に縮まる。
2) 米国の提供する魅力的なインセンティブ(優遇措置)
・ 米国の各州は、企業誘致のために様々なインセンティブを提供している。
・ これらのアグレッシブなインセンティブは、工場を設立するための初期投資費や運営費の米中間の差を縮めている。
3) 品質面での問題回避
・ アメリカと比較すると、中国工場で製造された製品の品質が低く、製品がアメリカに送られてきた際に、手直しや、良品質とそうでないものに仕分けるための作業に余計な出費を強いられている。
・ 低い人件費を求めて中国の内陸部に行くと、スキルを持った労働者を見付けることが困難になり、製造面では効率的ではない。
4) 知的財産の保護、偽造品対策
・ 中国では偽造品に対する規制が緩く、Made in Chinaでは顧客の信頼が得られないケースが増えている。
・ 今年6月には、米国の戦闘機や防衛システム等に中国の偽造電子部品が使われていることが判明し、偽造品の問題は国際レベルに発展している。
・ 現時点では米国での生産は中国より多少割高だが、Made in USAは信頼の証となる。
尚、中国以外のアジア新興国やメキシコ等へ低い人件費を求めるケースもありますが、これらの国々では、インフラの未整備やサプライチェーンの未構築等により、製造拠点を設けるには越えなければならない壁が多いというのがアナリストの見解です。
上記を理由に、最近ではGE、NCR等の大手企業が相次いで中国から米国に製造拠点を移しており、キャタピラー等も次の製造拠点を中国ではなく米国テキサス州に決定しています。また、フォルクスワーゲンやシーメンス等のヨーロッパ系企業も、中国やメキシコではなく、米国に積極的に生産拠点を設けているのも、同様の理由によるようです。
この動きは大企業のみでなく中小企業でも始まっており、向こう5年間で多数の製造業が米国に回帰するものと考えられています。
今後、日本企業の皆様が海外進出をお考えになる上で上記情報が参考になれば幸いです。
参照元サイト1: Smart Planet 「Next Low-Cost Manufacturing Center: the United States」